大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)3321号 判決

被告人 福田敏夫

〔抄 録〕

弁護人の控訴の趣意一、について。

論旨は原判決は被告人の原判示所為について、窃盗罪に問擬したが、被告人は当時所持金なく従つて真実買取る意思がないのにも拘らず、恰も買受けるもののように装い、被害者に対し一寸見せて呉れと申向けて同人をしてその旨誤信させた結果、本件時計を同人から受取り自己の実力支配に移したもので、詐欺罪をもつて問擬すべきであるから原判決は事実の認定、法律の適用を誤つたものであるというのである。

按ずるに、原判決挙示の証拠並びに当審証人岸静枝の供述を綜合すれば、原判示日時頃、判示場所において、判示岸とり方の店番をしていた岸静枝は、その店の陳列窓の中の時計を覗き込んだ、被告人から判示時計を見せて呉れと要求されたので顧客と思い、これを見せるため被告人に渡したところ、被告人は隙に乗じてこれを奪い逃げ出した事実を認めることができる。すなわち本件は岸静枝が右のように判示時計を被告人に交付したのは、被告人にこれを一時見せるために過ぎないのであり、その際未だ同女は判示時計に対する事実上の支配し管理する状態を失わないのであるから、間もなくその事実上の支配を侵害し右時計を奪取した被告人の所為を、窃盗罪に問擬した原判決は正当であり、所論のように岸静枝が判示時計を被告人に渡したことを目して、被告人の事実上の支配内に移した処分行為と解することはできない。従つて、仮令所論のような被告人の施用した欺罔手段があつても、詐欺罪は成立しないものというべきであるから原判決には事実の認定、法令適用の誤は存しないから論旨は理由がない。

註 本件破棄は量刑不当。

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